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2006.04.30.些細な事を出来るかぎり大げさにするコーナー
僕の声が君に全く届いていないように、君の声も僕に届いたことはない。
僕らはお互いに、お互いを黙殺するべきだった。
最初の言葉すら交わすべきではなかった。

この声は決して届くことがない、ということを知ってしまったとき、同時に僕は、自分がそのことに最初から気づいていたのを知った。

ならばなぜ、僕は最初の言葉を放ったのか。

それは、霞んで見えるほど遠い川の向こう岸、そこに向かって投げられた小石のように水面で一回跳ねてから、ポチャンと音をたてて流れる水面の下に沈む。
小石は水面を潜ったあと、ゆらゆらと揺れながら沈んでいく。
水の流れと自らの重さに、逆らうことなく従いながら。
そして滞りなく、川底のあるべき場所に落ち着いたことだろう。
小石を投げた僕の意図とは関係なく、揺れて沈みながら辿り着いたところ、その場所こそが、投げられた小石が本来向かうべきところであり、あるべきところなのだろう。

ならばなぜ、僕は最初の言葉に続くいろいろな言葉を紡いだのだろうか。

川のこちらの岸からも、霞んだ向こうの岸からも、その流れの下のほんとうを伺い知ることは出来ない。
お互いに投げあい、流れに沈んだ小石の行く末に、確かなものを持つことは無い。
小石を投げて起こったのは、投げられた小石が沈み川底に辿り着いた、ということだけであって、今立っているこの場所から水面より下のことを伺い知ることが出来ない以上、その行為の結果に、僕は、僕にとって見当違いの行く末すら見いだすことが出来ない。

そんな行為の積み重ねにより、僕にとっての君は、より遠いものになっていくばかりだった。
そして今の僕には、その行為を続ける理由がはっきりとなくなってしまった。

今、僕は一度も君の声を聞くことなく、君に一度も自分の声を聞かせることなく、それでも、最後を意味するこの言葉を告げねばならない。
その言葉のもつ強い意味が、長く続いたこの徒労を終わらせてくれることを信じて。
結局のところ、こんなに短く明確な言葉でさえ、そのほんとうのところは届くことがない。
この言葉の持つもともとの意味以上のものは、君に届かない。
もう僕は、僕の届けたかったものが君のもとに届くことを期待しない。
この言葉の性質による、とても限定された結果が起こることを期待するだけだ。

揺れる水面と、その先に続く向こう岸を眺めながら、足元の小石を拾う。

小石は水面で一回跳ねてから、ポチャンと音をたてて流れる水面の下に沈むのだろう。
水面を潜ったあと、ゆらゆらと揺れながら沈んでいく。
水の流れと自らの重さに、逆らうことなく従いながら。
そして滞りなく、川底のあるべき場所に落ち着くことだろう。

せめて、最後に投げるこの小石の落ち着くところが、深く静かなところであればいい。
弱々しく差し込む光の中で、ひっそりと、その重さを落ち着けるといい。

そう思いながら、僕は最後の小石を放った。
by s_lowdeath | 2006-04-30 05:11 | なぐりがき
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意味無し芳一

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